良作of良作。
コミックス「バットマン:ホワイトナイト」は、ショーン・マーフィーによって描かれた、従来のバットマンの物語を大胆に再構築した作品だ。
物語の中心になるのは、バットマンの宿敵のジョーカーが謎の薬物によって狂気から解放され「ジャック・ネイピア」という本来の人格を取り戻すという展開。そして、我らがバットマンを器物損壊、過剰防衛、住居侵入罪などなど、一般的な罪状と常識で追い詰めていく!
この物語には様々な見所が無数に存在し、特にバットマンとジョーカーの関係性については、一つの明確な解答を導き出している。バットマンとジョーカーの複雑な共依存の関係性をここまで端的にビジュアル化した作品はそう多くはないだろう。
また、上記でも述べたヴィジランテ(自警団)としてのヒーロー活動に伴って起きる被害について、シビアに取り込んでいる。これは、漫画・アニメ・映画など世の中に出回っている超人的、超常的ストーリーをテーマにした作品達が目を伏せてきたある意味禁じ手的な題材であり、野暮っちゃあ野暮な話である。
あらすじをざっくり
物語の始まりは、いつものようにバットマンとジョーカーの追いかけっこが発端だ。
楽しそうに逃げるジョーカーとブチ切れ顔で追い回すバットマン。ヒートアップしたバットマンは、バットモービルでGOTHAMの街をぶっ壊しながら追撃していく。
そして、やっと捕まえたところでジョーカーをぐちゃぐちゃに殴るバットマン。殴られながらもジョーカーは言う「街を巻き込むバットマンこそ本当のヴィラン」だと。
核心を突かれてもう辛抱たまらんくなったバットマンは、ジョーカーが持っていた薬を奪い取り、明らかに過剰な量をジョーカーの口に注ぎ込む。息が詰まったジョーカーは失神する。周りの警官や仲間もドン引きだ。
例によって頑固で周りの目が見えていないバットマンはいつも通りのスタイルで去っていく。
バットマンの過剰な正義に、人々が反対派と擁護派に別れ始めたところで、ストーリーが展開していく。
なんとバットマンに飲まされた薬の影響で、ジョーカーは毒っ気が抜け真っ当な人間へと生まれ変わってしまった。自らを本名のジャック・ネイピアと名乗り、GOTHAMの街を救いたい等と言い出す始末。
そして、ネイピアは決意する。これまでの悪行の罪滅ぼしと街の守り手として
「白い騎士(ホワイトナイト)」になると。
ここまでが序章で、いよいよここからが本編だ。これはつまり、バットマン[ダークナイト]に対してジャック・ネイピア[ホワイトナイト]が街を救うために戦うという、正悪逆転の物語になっている。
さらに面白いのが、基本的に暴力と科学力と資金力で敵と戦うバットマンに対して、ネイピアは法律と人々の声と仲間の力を使って対峙するところだ。語感だけ見てもバットマンのほうが悪そうに見える。
華やかな響きに浮かれていた観客に冷水をかけるかのごとく、冷静で現実的な目線でヒーロー活動を見たとき、そこにはヴィランと紙一重の危うい一面が浮かび上がるのだ。
そして、本編の始まりと共にジョーカーの恋人的な雰囲気でおなじみのハーレイ・クインの出番だが、今回は何とハーレイが二人も登場。コスチュームも「スーサイド・スクワッド」で馴染の深い現代版のコスチュームと、初期のコミック版に合わせたトランプのピエロ風ビジュアルで描き分けされている。
この二人のハーレイが現れたとき頭が???だらけになるが大丈夫。
作中でしっかりと回収されるので安心して欲しい。
この二人は、「ジョーカーのことが好きな現代版ハーレイ」と「ネイピアのことも好きなピエロハーレイ」で仲違いしてしまう。そして、現代版ハーレイはジョーカーを取り戻すため自らネオジョーカーと名乗り、GOTHAMの占領へと乗り出す。一方ピエロハーレイはネイピアに付き従い、街を救うためのサポートをするのだった。
さらに、ここでアルフレッドの危篤、Mrフリーズことヴィクターの登場、マッドハッターやクレイフェイスを始めとするスーパーヴィランの参戦も加わり、GOTHAMの命運をかけた大群像活劇へと発展していく。
最終局面までノンストップで突き進むストーリーの中で、キャラクターそれぞれの苦悩が絡まり合いつつも一つのゴールへと向かっていく。
この壮大な都市争奪戦を描き切るショーン・マーフィーによる緻密で美しいアートワークも、本作の大きな魅力の一つだ。
是非その手にとって確かめてほしい一冊である。



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